“子どもに教える”専門性とは

中野吉之伴さん

大学卒業後,育成年代指導のノウハウを学ぶためにドイツへ渡る.ドイツで,SCフライブルクU-15チームでの研修など様々な現場でサッカーを学び、2009年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル).2015年から日本帰国時に全国でサッカー講習会を開催し、よりグラスルーツに寄り添った活動を行なっている.

 

●主な指導歴
・フライブルガーFC(元ブンデスリーガクラブ)
U-16監督/U-16・18総監督
・FCアウゲン
U-19ヘッドコーチ(U-19・3部リーグ)/U-15監督
・SVホッホドルフ
U-8コーチ

 

サッカー指導などに関する著書もあり,ドイツと日本の架け橋となるサッカー指導者,そして記者.

 

そんな中野さんにインタビューをする機会をいただけたので,何回かに分けて公開したいと思う.(編集あり)


子どもたちを指導する難しさ

梅村:小学校低学年や中学年を指導していて難しいと感じることはありますか?

 

中野さん難しいなと思うのはやっぱり,意味と意義を理解してもらうってことだよね.あ,これやると楽しいなっていう風に思ってもらわないと,形だけの練習になってしまうし,特にやっぱりこっちの子ら(ドイツの子たち)は,納得できないとか,なんでしているのかわからないと気持ちを込めてやることが難しくなる.こっちの子がって言ったけど,日本の子もやってるわけではなくて,大体においてはやってる風なそぶりを作るのに慣れてたり,そういうことがうまくなっていく.でも,こっちはそういったものが学校だったり社会の中で,経験としてなかなかないから,最初の意識づけというか,「この練習やったらこういったことができるようになって,プラスになってこの練習にはこういう面白いことがある.」ということを言葉であってもそうだし,指導者のジェスチャーだったり,メニューの簡略化だったりとかで伝えるってところが難しい.このコーチの練習だったら面白いなっていうふうに思ってもらえるまでは,どうしても時間がかかる.でもそこまでの信頼関係が築くところがまず大事なところかな.

 

梅村:低学年というと例えば,サッカー始めたばっかりの子もいるじゃないですか?そういう子たちには最初サッカーというよりも鬼ごっこをやらせたりもすると思うんですけど,鬼ごっこでも意義を子どもに伝えるんですか?

 

中野さん:特に低学年というと一年生,二年生,幼稚園も含めて,こういった意味があって練習するよっていうとわかんないことの方が多い.そもそも先生やコーチが話しているのを聞きたいわけじゃないと思う.彼らは早く動きたいわけだし.ゆくゆく「これにはこういった意味があるよ」「こういうことができるようになるためにはこういった練習が必要だよ」っていうものを気づいてもらえるような下地づくりは必要かな.ただの鬼ごっこだけど,実はサッカーにつながるような体の身のこなしだったり,ちょっとした戦術的な動きみたいなものが,知らずのうちに身につくようなものをイメージしてやってたりする.でもあくまでもイメージや下地づくりだから,こうできなきゃいけないことみたいのはないし,成長差もそれぞれ.だから鬼ごっこや,ボールを手で使ってドッヂボール,ハンドボールみたいなのは低学年でよくやる.でも,サッカーやりたいって来てる子たちは,そうじゃないことをどのくらいの時間だったら飽きずにやるのか.最初のアップくらいなら楽しい楽しいって感じだけど,「でも,俺サッカーやりたいよ」っていう子に対して,「これも大事なんだよ」って言ってやらせると,さっきの話じゃないけど,納得してくれなくなる.どのくらいの時間の割合で鬼ごっこをやって,手で使うボールゲームをやるかっていうのは難しい.

中野さん:法則があるようでないようなものだから,前回はこのやり方でうまくいったなと思って,次の練習行ったらスタートの段階でもうやる気がないこともある.だからヨーロッパの人は特によく言うけど,低学年になればなるほど,経験豊富な指導者が大事っていうのは,そういった慣れがあるからだと思う.

 

 

梅村:僕がやってるバルシューレでは,意図を説明しないけど,その環境や指導者の声かけなど,メニューに意図を組み込んで,子どもたちがやっていく中でその能力が伸びていくということがあります.でもバルシューレしに来てるけど,サッカーやりたいって子がたくさんいますね.


力に差のある集団にはどうやって指導する?

梅村:僕が最近興味あることなんですが,低学年でも,能力差の大きいグループってありますよね.例えばすごく背の高い子と低い子がいるなど.僕が目の当たりにしたのが,女の子と背の高い運動できる男の子.そういう時の指導で気をつけていることや仕掛けやルールはありますか?

 

 

中野さん:さっきの続きになるけど,彼らは何もかも理性的に判断して,自分の中で感情処理できるわけじゃないから,できる限り感情的なところを,良くも悪くも見なきゃいけないと思う.能力差が大きいという点に関しては,理想を言えば,能力差が少ないグループに分けて,それぞれができる環境をも持つことがあると思う.人数が多すぎると1人で見切れないよね.抱えている人数が10人で能力差が大きいのと,20人で大きいのとでは違う問題になる.出来るだけ小グループで,関与しやすい環境を作ってあげるのが1つだと思う.その後でやっぱり上手い子,でかい子がいて,なんだったらその子1人で全部できちゃうみたいな時は,みんなその子と一緒にプレーしたがるというのが1つ.それで5対5なんかをやると,残りの9人はその子と一緒にやりたがるし,その子とやったら勝てると思ってる.

 

中野さん:勝てるけど,ボールに一回も触れないで終わる子もいて,じゃあ勝てたけど楽しいかっていう問題も出てくる.それは一回の練習でどうこうはできないと思う.じゃあ組み分けして,上手い子のチームになって勝ったけど,上手い子チームじゃない5人の方が,例えば,実際にボールに触れてて,走れてて,お互いが関われてっていう体験はできてたりする.

 

中野さん:でも子どもたちは最初勝った負けたで見るから,それが楽しい楽しくないになっちゃう.でも動いて,汗もかいて,ボール追いかけてってことが楽しいっていうのを,ちょっとずつわかってもらうっていうのも1つ大事.そして平等だからと言って10人いて5-5に割るのが,ベストかっていうとそうじゃないと思う.特別うまい子がいるんだったら,4-6でもいいと思うし,だめだったら3−7でもいいと思う.結局2チームのパワーバランスが同じようになることで,やっとお互いが意味のある関係性になってくると思うしね.3人でやるとズルイとか,ファウルとかいうけど「まずやってみようよ,意外にうまくいくかもしれない」「3人でバランス悪いなら1人増やして4−6にしようよ」ってことをしたりして,パワーバランスを取る.すると数の上では平等じゃないけど,チームとしては平等になってたり,それぞれが関与できるようになってきたりする.うまいけど,味方とプレーするの苦手っていう子もいるし,じゃあうまいけど1人でしかやってない子と一緒にいるのがいいのか,勝てないかもしれないけど,他のチームで味方と一緒にプレーするのがいいのか,っていうのでも違う.それがそれぞれの子の見方や捉え方で違ったりするから,そういうことを拾いながら,チーム分け気をつけたり,声かけの時,違ったアプローチをしたりっていうのは,大事かなと思う.

 

梅村:やっぱり最初に言ってた,子どもとの信頼関係を気づいてから,ちょっとずつわかっていくんですかね.この前,僕も指導を見ていて,サッカーのゲームのチーム分けが2年生の子2人と1年生の子5人になっていて,ちょっと違和感がありました.強い子2人と他の子達というのを僕はあんまりやったことがなくて.日本で見たことない形だなと思いましたね.

 

中野さん:例えば日本でいうと,2チーム分けようと言ったら,一番うまい子,2番目にうまい子は絶対一緒にならないけど,この2人は実は一緒にやりたがってる.絶対的に1番2番だったら,大体パワーバランスを揃えるよね.

 

梅村:大体一緒にできないですよね.

 

中野さん:でも彼らは彼ら同士でやりたい気持ちはあるし,平等だからいいってわけじゃないと思う.それこそ片方がボコボコに勝って,片方すんごい負けたって経験もそれはそれでいいと思う.すごいごねると思うけど,そんな日もあるよね.でもだから楽しくないわけじゃないっていうとこに持っていく方がいいと思う.

 

梅村:なるほど,そういう風には考えたことなかったかもしれません.

 

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