ドイツ帰国から1年を振り返って
大学院なんてやめようと思った日
約1年前,僕は大学院を辞めたいと先生に相談した.
いったい何をしていいのかわからず,自分が何者なのか,何をしている人間なのか説明することができず,周りの友達はすでに社会出てバリバリ働いていた.
僕はドイツから帰ってきて,本来の大学院生としての姿に戻らなければいけないと思い,研究をしようと考えていた.でも,どうやって研究をしたらいいのかまるでわからなかった.
ドイツでの1年間は決して無駄なものでなかったし,自分が今まで知らなかった世界に飛び込むことで数えきれないほどの発見をすることができた.
改めて自分がこれから進みたい道も把握できた.ただ,自分がなりたい姿になるための道筋がまるでわからなかった.
とりあえず英語の論文を読んだ方がいい,先行研究を集めようなどと思い,パソコンと向かい合っていたが,何も手応えはなく,時間だけが過ぎていく.そんな生活だけではダメではないかと,地域の子どもたちにスポーツを指導する場もほしいと思い,少年団を探したりもした.けれど,結局自分が本気で向き合えるようなことは見つからなかった.
帰国して1ヶ月くらい経ったとき,これ以上大学院にいてもきっとこの上から変わることはないだろうと思い,大学院を辞めて教師として働こうと考え相談の電話をした.
そこで言われたのは,なりたい自分への選択ではなく逃げの選択なら,また逃げた先でうまくいかなくなるということだった.だからポジティブに考えた上で選択した方がいいということだった.
2019年8月,僕の研究活動は始まった.
全くわからない,でも幸せだった
僕が思っていた以上に,研究の世界は難しいことだらけだった.初めて統計を学んで自分の研究を進めていった.質問紙も初めて作って子どもたちに答えてもらった.その過程でたくさん失敗もして,謝って,怒られても下を向かずに続けた.自分が今前に進んでいるということを感じることができていたからかもしれない.
いろいろの先生方と研究の話をして学会や授業研究会に参加したり,幼稚園の先生方の前で講演をしたり,とにかく誘われたものやお願いされたものを断ることなく全てYesで答えた.
初めて学会で発表もして,論文も投稿した.研究をしている1人の人間として存在することができている気がした.何よりも自分がなりたい姿に少しずつ近づいていることを肌で感じながら日々を過ごすことができた.
未だに,わからないことはたくさんあるし,失敗することもある.調査に関してもまだ未熟で迷惑をたくさんかけている.やっていることは側からみれば,書き起こし作業や打ち込み作業などの下働き.梅村は何をしているんだと思われていても仕方ない.結婚している友達もいる中,未だに学生をやっているというのも不思議な話だ.
しかし,その下働きと思われるようなことが今の自分の血肉となっていて,自分の研究をするときの具体的なイメージとして生きてくる.
そして何より,こんな自分にも「やることがある」ということがここまで幸せなことだとは思わなかった.
ドイツに行く前も,ドイツでも,帰国後も,何か行動がしたいけれど何をしていいのかわからなくて,それが本当に辛かった.今は自分のやるべきことがあるということを本当に幸せだと感じている.
想像できなかった今の自分
振り返れば,なかなか険しい道だったように思う.障害物になることもあったし,うまくすり抜けられないこともあった.
でも,今の僕は紛いなりにも同じ大学院生に研究指導をすることもあるし,学生に統計を教えることもある.卒業論文の指導に当たったり,学校の先生方にデータをもとにした授業に関する話をしたりもする.
どれもこれも1年前の自分には想像もできなかったことで,実感はないけれど間違いなく成長しているのだろう.
この1年間の中で何度も分岐点があった.「あそこで別の選択をしていたら,今はこうなっていなかったかもしれない」ということが結構あって,いつどこで自分の選択が未来の自分のためになるのかはわからない.
あのときに「他の予定があるから,行けないです」と答えていたら,今の自分にこのチャンスは来なかったかもしれない.あのときお金をケチって参加してなかったら,この仕事は僕じゃなかったかもしれない.そんなことを毎日思う.
大学院生は,世間から見れば何をしているのかよくわからないただの学生だ.実際朝は遅くまで寝ていることもあるし,昼間に銭湯でゆっくりしていることもある.たまに自分が何者かわからなくなるときもある.しかも今は通常の大学生がやるようなアルバイトもしていない.
これは決して自分を正当化するわけではないが,できるだけ舞い込んできたチャンスを掴むためには「速さ」が大切だと思っている.だから時間講師などのアルバイトは誘われても断ってきたし,働きながら大学院生をすることを辞めた.どんなときでも基本は頼まれたことや仕事に対応できるようにスケジュールは空けておいて,研究活動を優先する.
研究活動を最優先していろいろな誘いや頼み事にYesと答えられるように準備してきたことが,今の自分につながっていると思うし,これからもそうしたい.
自分で新しいことを吸収し,他の学生に教えたり,議論したりすることでまた新しいことを学び,ここからの1年はここまでの1年よりもより大きく成長したいと思う.